今回お伝えするのは「高齢者に多い側頭葉てんかんについて」です。
高齢者に多い側頭葉てんかん
「最近、急にぼんやりする時間が増えた」「ついさっきのことを覚えていないことがある」——ご高齢のご家族のこうした変化を、認知症の始まりと思い込んでいませんか?
実はその症状、高齢者に多い側頭葉てんかんかもしれません。
今回は、高齢者てんかんの中心である側頭葉てんかんの症状と見分け方、治療について、脳神経内科医専門医がわかりやすく解説します。
【この記事の要約】
- 高齢者のてんかんで最も多いものが、側頭葉から発作が起こる側頭葉てんかんです。
- 全身の激しいけいれんではなく、ぼうっとする・口をもぐもぐ動かす・発作のことを覚えていないといった目立たない症状が中心で、認知症と間違われやすいことが特徴です。
- 「急に始まり、短時間で戻り、繰り返す」のが見分けの鍵です。適切に診断されれば薬でよく効き、症状が大きく改善することが期待できます。
高齢者のてんかんは側頭葉から起こることが多い
65歳を超えると100人に1人以上がてんかんを発症するといわれており、高齢期はてんかん発症のピークのひとつです。
そして、高齢で発症するてんかんの多くは、脳の側頭葉という部分から発作が起こります。
側頭葉には、記憶を司る海馬や、感情に関わる扁桃体といった重要な部位があります。この場所から発作が始まるため、側頭葉てんかんの発作は、記憶が飛ぶ、奇妙な感覚が湧き上がる、ぼんやりするといった、一見するとてんかんらしくない症状として現れるのです。
全身がけいれんする発作はむしろ少数派で、だからこそ周囲からてんかんと気づかれにくいという特徴があります。
側頭葉てんかんの症状
側頭葉てんかんの発作は、時間の流れに沿って特徴的な症状が現れます。
◆ 発作の前触れ(前兆)
発作が始まる直前に、本人だけが感じる不思議な感覚が現れることがあります。胃のあたりから何かがこみ上げてくるような感じ、初めての場所なのに「前にここに来たことがある」と強く感じるデジャブ(既視感)、急に襲ってくる不安感や恐怖感、奇妙なにおいや味を感じる。
周囲からはまったく分からず、本人も「気のせい」と受け流してしまうことが多いのですが、実はこれ自体が発作の症状であり、脳のどこから発作が始まっているかを知る重要な手がかりになります。
◆ 発作の最中
急に動作が止まり、ぼうっと一点を見つめるようになります。呼びかけても反応せず、口をもぐもぐと動かしたり、手で衣服をまさぐったり、目の前の物をいじり続けたりします。
この間、本人の意識は低下していますが、倒れることはなく、座ったまま、あるいは立ったままで、口や手だけが勝手に動き続けます。これを自動症と呼びます。
周囲から見ると、居眠りや上の空と誤解されることも少なくありません。
◆ 発作の後
発作そのものが終わっても、ぼんやりした状態がしばらく続き、その場にそぐわない行動をとることもあります。
特徴的なことは、発作中と直後のことを本人がまったく覚えていないという点です。ご家族が「さっき話しかけたでしょう」と言っても、本人には記憶がありません。
この食い違いが、ご家族に「認知症が進んだ」と感じさせる一因にもなっています。
認知症との見分け方——「急に始まり、短時間で戻る」
側頭葉てんかんの症状は、物忘れ、ぼんやり、反応が鈍いといった認知症の症状と重なって見えます。ご家族が「認知症が急に進んだ」と心配されて受診し、詳しく調べると側頭葉てんかんだった、というケースは実際にあります。
側頭葉てんかんと認知症を見分るポイントは、症状の経過です。認知症による物忘れは、数か月から数年をかけて徐々に進行し、一日を通じて症状がほぼ一定です。
一方、てんかんによる症状は、ある瞬間に急に始まり、数分から数十分で元に戻り、それが繰り返されるという経過をとります。
「普段はしっかりしているのに、ときどき数分間だけ様子がおかしくなる」「気がつくと元に戻っている」——このような症状に変化のあるパターンこそ、てんかんを疑う重要なサインです。
また、側頭葉てんかんの中には、発作の症状が「記憶の抜け落ち」だけという特殊なタイプもあります。
朝起きたときの出来事を丸ごと覚えていない、旅行に行ったこと自体を思い出せない、といったエピソードが繰り返される場合、単なる加齢による物忘れではなく、てんかんの可能性を検討する価値があります。
治療について
高齢者の側頭葉てんかんは、てんかん治療薬が効きやすいです。比較的少ない量の抗てんかん薬で発作が抑えられることが多く、発作が止まることでぼんやりとした症状や物忘れのような症状が大きく改善することもあります。
当院では、高齢の患者さんのてんかん診療に力を入れています。「認知症と言われたが、症状に波があって腑に落ちない」「脳卒中の後からぼんやりすることが増えた」——こうしたご相談を歓迎しております。脳神経内科専門医が、症状の経過を丁寧に伺い、適切な診断と治療につなげてまいります。
よくある質問(FAQ)
Q. 側頭葉てんかんとはどんなてんかんですか?A. 記憶や感情を司る脳の側頭葉から発作が起こるてんかんです。けいれんよりも、ぼーっとする・口をもぐもぐ動かす・発作中のことを覚えていないといった症状が特徴で、高齢者のてんかんで最も多いタイプです。
Q. デジャブ(既視感)がよくあるのですが、てんかんでしょうか?
A. デジャブ自体は健康な方にもみられる現象で、あるだけで病気とは限りません。ただし、頻繁に繰り返す、強い不快感やぼんやりする症状を伴う、といった場合は側頭葉てんかんの前兆の可能性があるため、一度ご相談ください。
Q. 高齢の親がときどき、ぼうっとして呼びかけに反応しません。受診すべきですか?
A. 受診をおすすめします。数分間反応がなくなり、口や手が勝手に動き、後で本人が覚えていないという症状が繰り返される場合、側頭葉てんかんの可能性があります。脳神経内科にご相談ください。
Q. てんかんと認知症は合併することもありますか?
A. あります。アルツハイマー型認知症の方はてんかんを発症しやすいことが知られており、両方を持つ方もいらっしゃいます。その場合も、てんかん発作を薬で抑えることで、ぼんやりする時間が減り、生活の質が改善することが期待できます。