今回お伝えするのは「てんかんと妊娠・出産・授乳について」です。
てんかんと妊娠・出産・授乳
妊娠が分かってから出産、そして授乳期まで多くの方が不安に感じる時期ですが、適切な医療体制のもとで、多くの方が無事に出産と子育てをしています。
今回は、妊娠中の薬の管理、出産、授乳について、脳神経内科医専門医がわかりやすく解説します。
【この記事の要約】
- 妊娠が分かったら自己判断で薬を中止せず、主治医に相談をしてください。脳神経内科医と産婦人科医が連携して治療と妊娠を支えます。
- 妊娠中は薬の血中濃度が下がりやすくなることがあり、定期的な検査と薬の増量が必要なこともあります。
- てんかんがあっても基本的に普通分娩が可能で、授乳も原則的に行うことができます。産後は睡眠不足によるてんかん発作に注意が必要です
妊娠が分かったら、まず主治医に連絡を
妊娠を確認されたら、できるだけ早くてんかんの主治医にご連絡ください。
「赤ちゃんに薬の影響が及ぶのでは」と心配して、ご自分の判断で薬を中止したり減らしたりしないでください。妊娠中に発作が起きること、お母さんにとっても赤ちゃんにとっても大きなリスクとなります。倒れた際の打撲、けいれん発作中の酸素不足による胎児への影響、流産・早産のリスクがあり、これらは赤ちゃんを守るためにこそ、避けなければならないのです。
妊娠が分かった時点での薬の調整は、主治医の判断のもとで行います。赤ちゃんの大切な器官の形成は妊娠の早い時期から始まっているため、妊娠が分かってからあわてて薬を変えるよりも、現在の薬を維持しながら専門医の判断で適切に対応していくほうが安全な場合がほとんどです。
脳神経内科医と産婦人科医の連携
妊娠が分かった後、てんかんの患者さんは複数の専門医のもとで診療を受けることになります。それぞれの役割をご紹介します。
◆ 脳神経内科医(てんかんの主治医)が担うこと
発作のコントロールと薬の管理が中心的な役割です。抗てんかん薬の種類や量の調整、定期的な血液検査による血中濃度の確認、副作用のチェックを行います。
妊娠の経過に応じて薬の量を見直していくことも、てんかんの主治医の仕事です。
◆ 産婦人科医が担うこと
胎児の発育状況の確認、母体の健康状態の評価、超音波検査、そして出産の計画と実施を担当します。てんかんの治療を受けていることを踏まえたうえで、分娩の方法についての判断を行います。
医師の間では、患者さんの状況について情報共有が行われます。「現在どの薬をどのくらいの量で飲んでいるか」「発作のコントロールはどうか」「胎児の発育は順調か」——こうした情報を共有しながら、それぞれの専門領域で最善の判断を下していきます。
妊娠中の薬の血中濃度——増量が必要なことも
妊娠中の管理で注意が必要なことが、抗てんかん薬の血中濃度の変動です。妊娠すると、血液量が増え、肝臓や腎臓の働きが変化し、薬を処理する仕組みも変わります。その結果、同じ量の薬を飲んでいても、血液中の薬の濃度が下がることがあります。血中濃度が下がれば、それまで抑えられていた発作が起こりやすくなってしまいます。
そのため妊娠中は定期的な血液検査で濃度を確認し、必要に応じて薬の量を増やしていくことがあります。
妊娠中に薬を増やすことに不安に感じられるかもしれませんが、これは赤ちゃんを発作のリスクから守るためです。発作が抑えられている状態を保つことのほうが、お母さんと赤ちゃんにとって安全なのです。
出産後は体が妊娠前の状態に戻るのに合わせて、薬の量も徐々に元に戻していきます。
出産について——基本は普通分娩が可能
てんかんがあっても、基本的に普通分娩で出産できます。てんかんがあるという理由だけで帝王切開になるわけではありません。
発作のコントロールが良好で、その他に妊娠・出産上の問題がなければ、自然分娩が選択肢となります。
ただし、陣痛中や分娩中に発作のリスクが高いと考えられる場合や、他の事情によって帝王切開が選択されることもあります。
授乳——基本的に可能です
薬を飲んでいるのに授乳しても大丈夫かと不安に思われる方は多いです。多くの抗てんかん薬の添付文書には「授乳は控えて下さい」と書かれていますが、日本のてんかん診療ガイドラインでは、抗てんかん薬を服用しながらの授乳は原則的に可能と明記されています。
ほとんどの抗てんかん薬は母乳に移行する量がごくわずかで、赤ちゃんへの影響は限定的です。
母乳育児の数多くのメリットを考えると、てんかんを理由に授乳を諦める必要はないケースが多いのです。
産後の発作リスク——睡眠不足に要注意
出産後の女性てんかん患者さんに特に気をつけていただきたいことが、産後の睡眠不足による発作リスクです。
睡眠不足はてんかん発作の代表的な誘因の一つで、産後の数か月は夜中の授乳やおむつ替えで睡眠不足になりがちです。
産後はご家族と協力して、できるだけまとまった睡眠時間を確保していただきたいと思います。夜の授乳はパートナーに搾乳した母乳やミルクを担当してもらう、家事を分担する、産後ケアサービスを利用する——こうした工夫でお母さんの睡眠を守ることが、安定した育児につながります。
当院では、女性のライフステージに寄り添ったてんかん治療を大切にしています。脳神経内科専門医として、産婦人科の先生方と協力しながら、お一人おひとりの妊娠・出産・育児を支えてまいります。
よくある質問(FAQ)
Q. 妊娠が分かったら薬をやめるべきですか?A. 自己判断での中止は危険です。妊娠中の発作はお母さんと赤ちゃんに大きなリスクとなります。まず主治医に相談し、薬の調整は必ず医師の判断のもとで行ってください。
Q. 薬を飲みながら母乳をあげても大丈夫ですか?
A. 原則は可能です。多くの抗てんかん薬は母乳への移行がごくわずかです。ただし赤ちゃんに眠気などの様子が見られたら主治医・小児科医に相談してください。出産前に方針を話し合っておくと安心です。
Q. 妊娠中に発作が起きてしまいました。赤ちゃんに影響はありますか?
A. 短い発作が1回起きたからといって、直ちに赤ちゃんに重大な影響が出るとは限りません。ただし必ず主治医に報告し、薬の調整が必要か確認してください。転倒してお腹を打った場合や、発作が長く続いた場合は、産婦人科の受診も必要です。
Q. 無痛分娩を希望していますが、てんかんがあってもできますか?
A. 多くの場合可能です。麻酔を用いる無痛分娩がてんかんを理由に一律に制限されることはなく、むしろ痛みや疲労の軽減が発作予防に役立つ面もあります。最終的には産婦人科医・麻酔科医が総合的に判断しますので、希望を早めに伝えておくとよいと思います。。