抗てんかん薬と妊娠について|一宮市の脳神経内科|あたまと内科のうえだクリニック

トピックス TOPICS

抗てんかん薬と妊娠について

このコラムでは脳神経内科専門医が体調や健康に関する情報をわかりやすくお伝えします。
今回お伝えするのは「抗てんかん薬と妊娠について」です。

てんかんの薬と妊娠について

「薬を飲んでいて妊娠して大丈夫?」「赤ちゃんに影響はない?」——てんかんのために治療中の女性が妊娠を考えるとき、こうした不安はごく自然なものです。結論からお伝えすると、てんかんがあっても適切な準備と治療によって妊娠することは十分に可能です。この記事では、抗てんかん薬の選択、催奇形性のリスク、葉酸補充の意義を、脳神経内科医専門医がわかりやすく解説します。

 

【この記事の要約】

  • てんかんがあっても計画的な準備でお子さんを授かることは十分可能です。
  • 抗てんかん薬の中ではラモトリギンやレベチラセタムは妊娠中の使用に比較的安全とされ、バルプロ酸は妊娠可能な女性では可能な限り避けることが推奨されます。
  • 妊娠1か月以上前からの葉酸補充と、妊娠前からの薬の見直しが重要です。

 

妊娠前の準備が大切な理由

赤ちゃんの体は妊娠の早い時期から作られます。心臓、脳、脊髄といった大切な器官は、妊娠4週から12週ごろまでにその基礎が形成されます。
妊娠初期は、女性自身がまだ妊娠に気づいていないことも多い時期です。だからこそ、妊娠を考え始めた時点で薬の選択や量の調整を済ませておくことが、赤ちゃんを守る上でとても重要になります。
薬の変更には数か月から半年以上かかることもあり、妊娠を希望する時期から逆算して余裕をもって準備することが必要です。

抗てんかん薬と赤ちゃんへの影響

まず前提として知っておいていただきたいのは、抗てんかん薬を飲んでいない女性でも、生まれてくる赤ちゃんに何らかの先天異常が見られる確率は2〜3%程度あり、けっしてまれではないということです。抗てんかん薬を飲みながら妊娠した場合、この確率は薬の種類や量によって変わってきます。代表的な薬を、現時点で分かっているリスクに応じて3つのグループに分けてご説明します。

◆ 比較的安全と考えられる薬

ラモトリギンとレベチラセタムがこれにあたります。1種類だけで使用した場合、先天異常の発生率が低いことが複数の研究で報告されており、妊娠を考える女性に第一に検討される薬です。効果の面でも幅広い発作タイプに使えるため、妊娠を希望される方の薬を切り替える際には、まずこの2剤が候補になります。

◆ 中等度の注意が必要な薬

カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタール、トピラマートなどがこのグループです。胎児への影響が報告されているため、妊娠を考えている場合は、可能であれば妊娠前に別の薬への変更を検討します。ただし、てんかんの発作タイプによってこれらの薬しか有効でないというケースもあります。その場合はやむを得ず継続することもありますが、必要最小限の量に調整したうえで慎重に管理していきます。

◆ 可能な限り避けたい薬——バルプロ酸

バルプロ酸は、妊娠を考える女性において最も注意が必要な薬です。二分脊椎などの先天異常に加え、出生後のお子さんの知能低下や自閉症のリスク上昇が報告されており、これらのリスクは服用量が多いほど高まることが分かっています。妊娠を希望される女性はバルプロ酸は可能な限り避けることを考えます。

しかし、すでにバルプロ酸を服用している方が、ご自身の判断で急に薬をやめてはいけません。急に内服を中止するとてんかん発作を引き起こし、ご自身と将来の赤ちゃんを危険にさらします。
妊娠を考えている場合は、必ず主治医に相談し、計画的に薬を切り替えていくことが大切です。

 

リスクを下げるための4つの原則

妊娠を考える女性のてんかん治療では、リスクをできるだけ小さくするための原則があります。

第一に、可能な限り単剤で治療すること。複数の薬を組み合わせると先天異常の確率が高まります。

第二に、必要最小限の量で発作を抑えること。多くの薬は量が多いほど赤ちゃんへの影響が強くなります。

第三に、できるだけ安全とされる薬を選ぶこと。具体的にはラモトリギンやレベチラセタムが優先されます。


第四に、発作のコントロールと安全性のバランスをとることです。赤ちゃんへの影響を恐れて薬を減らしすぎると発作が起きてしまい、妊娠中の発作、特に重い発作はお母さんにとっても胎児にとっても大きなリスクとなります。妊娠中に発作を起こさないようにしておくことが大切であり、薬を減らすほど安全ではないという点は、ぜひ知っておいていただきたいところです。


葉酸補充の意義

妊娠を考える女性にとって大切なことが、葉酸の補充です。
葉酸はビタミンB群の一種で、妊娠初期に不足すると赤ちゃんに神経管閉鎖障害(二分脊椎など)が起こりやすくなることが分かっています。

一部の抗てんかん薬(特にバルプロ酸やカルバマゼピン)は体内の葉酸濃度を低下させるため、てんかんで治療中の女性はより葉酸補充を意識する必要があります。

葉酸補充は、妊娠1か月以上前から、栄養補助食品から1日0.4mgを摂取することが推奨されています。抗てんかん薬を内服している場合は、より高用量が推奨される場合もあります。
サプリメントを利用される場合は、葉酸の含有量を確認した上で、主治医にどの製品を選べばよいかご相談いただくと安心です。

葉酸補充は妊娠が分かってからではなく、妊娠を考え始めたら、その時点から毎日続けていくことが大切です。


過度に怖がらないでほしい

ここまでリスクや注意点を丁寧にお話ししてきましたが、最後にお伝えしておきたいことがあります。てんかんがあっても、計画的に妊娠、治療の準備を進めていけば、安全に妊娠、出産をすることができる可能性は十分にあります。

「薬を飲んでいるから子どもを持つのを諦めなければいけない」というわけではありません。「薬を飲んでいるからこそ、計画的な準備が必要」ということです。


当院では、てんかんの治療に力を入れており、妊娠を考えていらっしゃる女性もご相談いただきたいと思います。脳神経内科専門医として、産婦人科医とも連携をとってお一人おひとりを支える治療を行っていきます。

よくある質問(FAQ)

Q. てんかんの薬を飲んでいても妊娠できますか?
A. 妊娠はできます。妊娠を考え始めたら早めに主治医に相談し、薬の見直しや葉酸補充を進めることが大切です。

Q. バルプロ酸を飲んでいます。すぐにやめるべきですか?
A. 自己判断での中止は危険です。急にやめるとてんかん発作が起こり、かえってリスクが高まります。妊娠を考えている場合は主治医に相談し、計画的に別の薬へ切り替えることが大切です。

Q. 薬を完全にやめてから妊娠したほうが安全ではないですか?

A. 必ずしもそうではありません。薬をやめて発作が再発すると、けがや流産など、薬以上のリスクをお母さんと赤ちゃんにもたらします。できるだけ安全な薬を最小限の量で続けながら妊娠に臨むことが重要です。

Q. 夫が抗てんかん薬を飲んでいます。赤ちゃんへの影響はありますか?

A. 男性の服薬については、母親の服薬ほどの影響はないと考えられており、基本的に過度な心配は不要です。ただし薬によっては議論が続いているものもあるため、気になる場合は主治医にご相談ください。