このコラムでは脳神経内科専門医が体調や健康に関する情報をわかりやすくお伝えします。
今回お伝えするのは「片頭痛の概要について」です。
片頭痛とはどんな病気?——原因・症状・治療を、具体例とともにやさしく解説
「ズキズキする頭痛を月に何度も繰り返す」「吐き気がして寝込むほどつらい」「天気が悪い日に必ず痛くなる」——その症状、片頭痛かもしれません。正しく知ることが、治療への第一歩です。
片頭痛は身近な病気
片頭痛は、日本人の約8.4%、およそ1,000万人が抱えていると推定されています。決して珍しい病気ではありません。
特に20〜40代の働き盛り世代に多く、性別では女性が男性の約3倍の有病率を示します。30代女性に至っては「5人に1人」が片頭痛持ちというデータもあり、結婚・出産・育児・キャリア形成といった重要な時期と重なってしまうことが、女性にとって深刻な問題となっています。未成年においても、高校生で9.8%、中学生で5.0%、小学生でも3.5%の人に片頭痛があるとされています。
世界保健機関(WHO)も、片頭痛を「健康な日常生活を大きく損なう疾患」の上位に位置づけています。日本における労働損失額は年間数千億円にのぼるとも試算されており、社会全体への影響も大きくなっています。しかし実際に医療機関を受診している方はごく一部で、多くの方が市販薬で耐え続けているのが現状です。「頭痛くらいで」という遠慮が、適切な治療を遠ざけてしまっているのです。
片頭痛の原因
片頭痛は、脳がもともと刺激に対して過敏な体質の方に起こりやすい病気です。これには遺伝的な要素もあり、ご両親や兄弟姉妹に片頭痛持ちがいる場合、ご自身も発症するリスクが高まります。患者さんに「家族に頭痛持ちはいませんか?」と尋ねると、お母様や祖母も同じ症状だったとお話しされる方が非常に多いのです。
発作のメカニズムとしては、ストレス・睡眠不足・気圧の変化・ホルモン変動などがトリガー(引き金)となり、三叉神経が興奮します。三叉神経の末端からCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)という物質が放出され、脳の血管が拡張して周囲に炎症が起こります。これがあの激しいズキズキとした痛みの正体と考えられています。
よくあるトリガーの例:
- 月曜日の朝、仕事がいそがしくなると頭痛が起きる(ストレス)
- 台風や雨の前日に痛む(気圧の変化)
- 月経の前後に必ず頭痛が現れる(ホルモン変動)
- 寝不足の翌日、または寝すぎた休日に頭痛がする(睡眠リズムの乱れ)
「自分はどんなときに頭痛が起きやすいか」を知っておくことが、発作を減らす第一歩になります。
片頭痛の症状
片頭痛は単純な「頭の痛み」ではなく、複合的な症状が時間とともに変化していく病気です。
①予兆期(数時間〜1日前) 発作の前から体の変化が始まっています。あくびが頻繁に出る、首がこる、なんとなく疲れやすい、甘いものが無性に食べたくなる、気分がそわそわする・落ち込む——これらは「頭痛が来るかも」という体からのお知らせです。「明日頭痛が来そう」とご自身でわかる患者さんも少なくありません。
②前兆期(一部の方に出現) 頭痛の30〜60分前に、視野の中にギザギザとした光が広がる「閃輝暗点」が起こることがあります。患者さんは「目の前にチカチカ光るぎざぎざが見える」「視野の一部が見えにくくなる」などと表現されます。手足のしびれや言葉が出にくくなる前兆もあり、初めて経験すると脳卒中と勘違いして救急を受診される方もいます。前兆は通常60分以内に消え、その後頭痛が始まります。
③頭痛期(4〜72時間) こめかみのあたりがズキズキ・ドクドクと脈打つように痛みます。多くの場合は片側ですが、両側のこともあります。重要なのは以下の特徴です。
- 体を動かすと悪化する:階段を上る、お辞儀をする、咳をするだけでも痛みが増す
- 吐き気や嘔吐を伴う:食べ物を見るのもつらい状態
- 光・音・においに過敏になる:蛍光灯がまぶしい、子どもの声がうるさい、料理のにおいで吐き気が強まる
「暗い静かな部屋で横になるしかない」という状態が数時間〜数日続きます。仕事も家事もできず、家族の予定もキャンセルせざるを得ない——これが片頭痛のつらさです。
④回復期 頭痛が和らいだ後も、しばらくは倦怠感、集中力の低下、気分の落ち込みが続きます。「発作の翌日も違和感がある」と訴える方が多いのは、このためです。
これらの症状が代表的ですが、すべての症状があるとは限りません。はっきりとした前兆がない方もいたり、頭痛の持続時間も個人差があります。ご自身で気になる症状があればご相談ください。
検査——CT、MRIは「危険な頭痛」を除外するため
片頭痛の診断は、問診と神経学的診察が重要です。「いつから始まったか」「どのくらいの頻度で起きるか」「どんなときに悪化するか」「随伴症状はあるか」など、頭痛の状態を聞かせていただくことが診断の中心になります。
CTやMRIといった画像検査は、片頭痛そのものを見つけるための検査ではなく、くも膜下出血・脳腫瘍など命に関わる病気を除外する目的で行います。「検査で異常がなかったから安心」ではなく、「異常がないことが確認できた上で、片頭痛と診断できる」という考え方です。
画像検査が強く勧められるサイン:
- 突然始まる「今までで一番ひどい」頭痛
- 発熱・首のこわばりを伴う頭痛
- 手足の麻痺・ろれつが回らない・視野が欠ける
- 50歳を過ぎてから初めて起きた頭痛
- 頭部を打った後の頭痛
- 日に日に悪化していく頭痛
治療——「急性期治療」と「予防療法」の二本柱
片頭痛治療の基本は、「起きてしまった発作をすぐ止める」ことと、「発作そのものを起こりにくくする」ことの組み合わせです。
【急性期治療:発作を素早く止める】 ロキソプロフェン、イブプロフェンなどやアセトアミノフェンといった鎮痛薬の効果があることがあります。しかし、片頭痛ではこのような一般的な鎮痛剤の効果が得られにくいことも多いです。そのような場合は片頭痛専用のトリプタン製剤が第一選択です。市販薬では効果がなかった頭痛がスッと楽になることも珍しくなく、「人生が変わった」とおっしゃる患者さんもいます。
【予防療法:発作の頻度を減らす】 月に2回以上の発作がある方、生活への支障が大きい方には予防薬が有効です。従来は内服の予防薬が使われてきましたが、近年登場したCGRP関連抗体薬は片頭痛のために設計された画期的な薬で、月1回または3ヶ月に1回の皮下注射により約半数の方で頭痛日数が半分以下に減少したと報告されています。従来の予防薬では効果が不十分であった方にも効果を期待することができるようになりました。
【生活習慣の見直し】 頭痛日記でトリガーを把握し、規則正しい睡眠・食事・ストレス管理を整えることも、薬と並んで重要な治療の一部です。これらを組み合わせることで、より効果的なコントロールが可能になります。
「我慢する病気」ではなくなりました
片頭痛は、ここ数年で治療の選択肢が大きく広がり、「適切な治療で生活を取り戻せる病気」へと変わりました。「以前の治療で効かなかった」という方ほど、いまの治療を見直す価値があります。
「ずっと頭痛と付き合ってきた」という方も、「家族にも頭痛持ちがいるから諦めていた」という方も、ぜひ一度専門医にご相談ください。あなたにあう治療が、きっと見つかります。
当院の脳神経内科では、片頭痛の正確な診断から最新の予防療法まで幅広く対応しています。頭痛でお困りの方はお気軽にご相談ください。